ふくろう通信 今年は楽聖ベートーベン生誕250年の年だった
- 2020年
2020年11月 第254号
今年は楽聖ベートーベン生誕250年の年だった
今年は作曲家ベートーベンの生誕250周年、コロナ禍で多くの彼の記念演奏会が中止となり、実に残念でした。私が団長をしている長崎交響楽団50周年記念演奏会や、東京オリンピックも同じ運命(交響曲第5番)でした。今回は少しばかり変わった側面のベートーベンです。
変わった曲、珍しい曲について:
『失われた小銭への怒り』:ピアノ曲。彼自身が付けたタイトルではないのですが、なんとも奇妙なタイトルです。この曲は、確かに何か妙にイライラしているものを感じます。最近NHKテレビのクラシック倶楽部で、若手演奏家、福間洸太朗がとっても上手に、イライラせずに演奏していました。かなり難しそうな曲でした。
『戦争交響曲(ウエリントンの勝利) 』:これも普通演奏されない曲です。交響曲とはいっても、9つの交響曲には含まれない番外作品です。初演当初は歴史的なこともあり、熱狂的に歓迎されましたが、現在は見捨てられた感じがします。再現には火器が必要なこともあり、演奏機会も少ないです。私は演奏会で聴いたことがありません。私の先輩は駄作と言って切り捨てました。皆さんはどうでしょうか?
『バレー 騎士のための音楽』:バレーパントマイムのためのシンプルな管弦楽曲です。ボン在住中の若い20歳の時の曲。おそらく聴かれた方は多くないのではと、思います。 というのもつい最近、私は朝のNHKFMの番組で初めて知りました。こんな曲もあるのか、が感想です。。第1曲の「行進曲」からはじまる、8曲構成の楽しい曲です。
『幻の第10交響曲』:患者さんから頂いた珍しいCDがこれです。英国のベートーベン研究家、バリー・クーパー博士が遺稿を発見し、指揮者のウイン・モリスの協力を得て復元しました。1827年ベートーベンが死亡する8日前の手紙に「机の中に新しい交響曲が入っている」とあり、これが遺稿でした。博士によると、ベートーベンはこのほかにも交響曲のスケッチ、構想が多くあったと記しています。曲の感想はノーコメントとします。
彼の容貌、性格、生活上の逸話について:
身長は165cm、ちなみにモーツアルトはもっと低く152cmです。特に美男でもないが悪くもなかったようです。性格は喜怒哀楽が激しく、イラッとして召使いにものを投げつけたというエピソードがあります。また60回も引っ越しをして、神経質でした。コーヒーとワインを愛飲し、服装には全く無頓着。散歩が好きでした。
健康、難聴について:
慢性的な腹痛や下痢があり、死後の解剖では内臓臓器に障害が見られました。近年、彼の毛髪から通常の100倍近い鉛が検出されましたが、鉛は聴覚に悪影響を与える重金属です。愛飲していたワインの添加成分の鉛が原因とする説があります。また、肝障害による腹水治療を行った際、傷口消毒のために使用された鉛も注目されています。また肝障害はアルコール、特にワインの飲みすぎの肝硬変だった可能性があります。難聴の原因については、上記の鉛説のほか、耳硬化症説があります。現代ではこの疾患は手術で改善されます。難聴であるはずのベートーベンが、ピアノを弾いている弟子に、「そこはおかしい!」と注意したエピソードや、後年リストの演奏を絶賛したことがあり、全く聞こえていなかったわけではないようです。耳硬化症だとすると、現代の医学ではせいぜい中等度難聴であると考えられます。
それでもベートーベンは実に偉大だ:
何やらあまりいいことを書いてない気分がして、ベートーベンには悪いので、最後に私の本当の気持ちを書きましょう。ベートーベン大好きです。曲も人間としてもです。特に全ての交響曲、ピアノソナタ、弦楽四重奏曲などは、そのひとつひとつに創造の新しさがあり、感動的です。コロナの災いは彼の人間社会への戒めかも知れませんね。「この乱れた社会、音楽よりももっと大切なものがある。第9交響曲の世界の、神と人間相互の愛を忘れるな」と言っているようです。