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ふくろう通信  最も敬愛する作家 遠藤周作氏

  • 2018年

201810 229

  周作クラブ投稿文より転載、改変、加筆しています

 

 氏は1954年、長崎市生まれ、私と同年生まれ、同郷であり、強い親近感があります。カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞のニュースには驚きました。映画化もされた代表作の「日の名残り」はしみじみとした英国風の小説でした。そこで考え込むのが私の最も敬愛する作家、遠藤周作氏になぜノーベル賞の受賞がなかったか、ということす。氏の「沈黙」が投げかけた問題性は鋭く、きわどいものがあり、その点を嫌った選考員がいた為とも云われています。しかし作品の質と量、エンターテインメント性、カトリック作家としての真摯な問題呈示、真の意味での作家的力量等、これらを勘案すると、当然受賞されても不思議でなかった。受賞には様々な要因があり、受賞が全てではありませんが、今となっては少し残念な気持ちがします。

 

 

 今から40年前ころ、長崎ではネスカフェゴールドブレンドコンサートがたびたび開催され、クラッシック音楽のすそ野の拡大をねらっていました。その都度私も、素人バイオリンで参加し演奏していました。周作氏も音楽が好きだったようですね。その会社のCMで若々しい遠藤さんが、美味しそうに、キザっぽくコーヒーを飲まれていたシーンを思い出します。長崎の外海まで来られ、違いの分かる男を演じられた、CMロケがあったと聞いています。私にとりその頃が氏の作品との出会いでした。遠藤作品への論考や感想などは、あまりにも多くの方々が書いておられるので、今回は私が何故、遠藤周作氏その人が大好きなのか、尊敬するのかの理由に絞って述べてみます。

 第一は氏がこよなく長崎を愛された作家という点です。長崎人には本当に有難いことです。「女の一生」二部作は、長崎へのプレゼントと考えてもいい作品ですが、無償の愛とは何であるか、について著された小説、何回も泣かされてしまいました。周作クラブの一員である私は、今年3月11日、氏の記念館で開催された、女の一生『キク』の小説の朗読劇の前後でバイオリンを弾きました。氏がお好きだったモーツアルトの曲のアイネクライネ・ナハトムジークとアヴェ・ヴェルム・コルプスを遠藤氏への感謝の思いも込めて、妻のピアノと共に演奏しました。

 第二は無類の動物好きであることです。氏の「わが最良の友動物たち」という本を読むと、同じく動物大好きな私は、遠藤さんの気持ちが手に取るようにわかります。家庭の都合で子供時代大連を離れ、飼っていた「クロ」という犬との離別の場面はほろりとさせられます。苦笑したのは「秋の暮糞する犬の顔哀し」という句。我犬もその時はそんな顔です。

 第三は人間性です。ユーモアがあり、温かで本当は誠実な人柄。個人的に付き合うとなるとなかなか大変な所も多々あると聞きますが、あらゆるものにチャレンジする精神は素晴らしく、それは樹座(素人劇団)の座長で発揮される姿であり、心暖かな、患者中心の医療を提唱したりする姿勢です。氏は何度か死を目前にするほどの大病をされました。昭和57年に読売新聞に「患者からのささやかな願い」を投稿されたのを期に、この運動に費やされた活動は胸を打つものがあり、敬服に値します。平和公園の下で内科を開業している私も、これらの言葉に耳を痛くしながら傾けて、今後も医療活動を続けていきたいと念じています。

 最後は氏の不思議なものに関心を寄せる、大いなる好奇心です。死んだらどうなるか、幽霊は、輪廻転生はあるのか、これらの点に関して多くのことを面白おかしく書いておられました。私は、これらの著作から刺激を受け、多くの関連書を読み、大いなる存在がある、ということの確信に至りました。患者さんが死を心配される時は、いつも率直に話します。またカトリック患者さんが半数を占める私どもの医院では、患者さんの方々からも教えられることが一杯あります。遠藤氏から触発されることは、まだまだ続きそうです。大切な遠藤文学と音楽とをこれからも私の永遠の友としていく次第です。

 

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