ふくろう通信

ふくろう通信 チャイコフスキー バイオリン協奏曲

2018年6月 第225号

私が高校生の時、レニングラードフィルが長崎にやってきました。その時チャイコフスキーのバイオリン協奏曲が長崎公会堂で演奏されました。圧倒的な演奏に唖然、学生時代に最も好んで聞いていた曲がこの協奏曲となったのです。レコードはバイオリンがヘンリック・シェリング、指揮はアンタル・ドラティ、ロンドン交響楽団の演奏で、それこそ擦り切れるくらい、何回も何回もかけました。この曲を先月5月27日、長崎交響楽団の定期演奏会で演奏しました。今回はその感慨が消えうせないうちに、この曲にまつわる事について、書いてみようと思います。

皆さん方の中で、この曲を聴いたことがない方、是非お聞きになったら、と思います。ウーン、いいじゃない!と思われるに違いありません。第一楽章の迫力、第二楽章の抒情性、第三楽章のあふれかえるリズム感、特に第一楽章で主題が全楽器で強奏され盛り上がるところは、昂揚感たっぷりで、いよっ、大統領という感じになります。メロディーも素敵、しかし初演の時は散々だったようですが、次第に理解され、最も演奏される機会の多いバイオリン協奏曲の一つとなりました。3大バイオリン協奏曲はベートーベン、ブラームス、メンデルスゾーンとされています。みんな独墺(ドイツ、オーストリア)系です。チャイコフスキーのも3大協奏曲に勝るとも決して劣らないほど、素晴らしいのですが、ロシアの作品ということでハンデがあったのでしょうか。しかし4大バイオリン協奏曲になるとこの曲は入ります。

私は学生時代、そして社会人になってから伴奏したバイオリン協奏曲は、ベートーベン、メンデルスゾーン、サン・サーンス、シベリウスだけです。チャイコフスキーも是非弾きたかったのですが、今までそのチャンスはありませんでした。今回、東京芸大教授で長崎OOMURA室内合奏団の指導者の松原 勝也氏をソリストに迎え、演奏しました。練習の度、なんて素晴らしい演奏、甘い音色でありつつ的確な音楽を紡ぐ方だと、本当に感心しました。官能性と精緻さを併せ持った、音楽性あふれる演奏です。松原氏とお話をすると、今からちょうど23年前の1995年6月14日に,長崎浦上天主堂で行われた,小澤征爾指揮,新日本フィルハーモニーによる、マーラーの「復活」が演奏されましたが、その時のコンサートマスターをされたそうです。私も当時聴いたのですが、とても素晴らしい演奏会でした。

さらに昔の話です。私が大学4年生の時、長崎大学管弦楽団のコンサートマスターをしました。学生時代最後の演奏会は、フォルカー・レニッケ(元九州交響楽団指揮者)を指揮者として招き、ベートーベンのピアノ協奏曲第4番とブラームスの交響曲第1番を演奏。この時のピアニストは、今では日本で最も優れたピアニストの一人、エリザベート王妃国際コンクールの優勝者の清水和音さんでした。当時高校生でしたが圧倒的な演奏をして聴衆、楽員ともに驚かせたのです。何とも指揮、演奏者は豪華でした。ブラームスの交響曲第1番は、カラヤンが涙を見せながら、日本で最後に演奏した曲でもありました。この曲の第2楽章にバイオリンのソロの部分があり、それを私が弾いたこともあり忘れがたい曲です。その時、第2バイオリンのトップを弾いていたのが優しいMさん、私が秘かに好意を寄せていた女性で、彼女に聴きなれて大事にしていた、シェリングのチャイコフスキーのバイオリン協奏曲のレコードをプレゼントしました。ところが数年前、彼女は病気で亡くなりました。彼女のことを思い出し、追悼しながらこの曲を演奏したのです。